介護・依存から自立へ(2/3)

21世紀リハビリテーション研究会 事務局長滝沢茂男

インペアメントレベルから自立への訓練
 現在、木村哲彦(副会長・日本医科大学医療管理学教室教授・前国立リハセンター病院院長)は医学的見地から研究を主導している。木村は本年から研究に対する表現として取り入れた、「解剖学的機能損傷(インペアメント)を克服してADL(日常生活能力)自立度を高める」について、脳血管障害の後遺症による寝たきりから自立を獲得したRESNA学会における発表例を引き、説明した。これまでの研究を踏まえコミュニティ リハ ネットワークの重要性を述べた。各報告者からその手段と実際を「創動運動とその実施プログラムに係る研究を中心として」として報告されるとの紹介があった。本年三月に発表したCSUN論文におけるMOTIVATIVE EXERCISE(筆者の造語)を日本語表記として、会員の意見を取り纏め「創動運動」と定めたとの紹介があった。

老人介護力強化病院における訓練と実績評価
 牧田光代(昭島市高齢者在宅サービスセンター愛全園所長)は、寝たきり老人病院において、入院者225名中193名にリハ訓練として、タキザワプログラムに基づく創動運動を実施し、当初全員が歩行不能であったが59名が歩行可能となった事実と、その訓練の概要を述べた。

徒手と二つの簡易機器による関節可動域運動の比較
 遠藤敏(慶応義塾大学病院リハ科)は、牧田の報告の実現を可能にした二つの簡易機器について3次元動作解析装置を用いて、下肢機能訓練器具としての可能性を検証し、報告した。
内容は、正常健康人6名の、簡易足関節背屈器(以下背屈機器と略)と簡易膝関節屈伸器(以下屈伸機器と略)の運動時と理学療法士の他動運動時の関節角度をアニマ社製LocusⅢDMa6250使用して三次元分析の実施による運動角度の比較分析である。

 結果は、「背屈機器による足関節背屈角度は、0度から37度の可動範囲であり、理学療法士の背屈運動は、底屈12度から背屈37度の運動、屈伸機器による膝関節屈伸角度は、屈曲10度から118度であり、理学療法士の屈伸運動では、0度から140度」であった。
 「機器と徒手では平均値、最頻値には有意差が無かったので、パターン的には、機器・徒手とも殆ど同様の運動を行えたと推測される。」と総括した。

下肢機能訓練器具による運動機能の回復度を定量的に評価できる機器の開発
 家本晃(神奈川県産業技術総合研究所機械システム工学部)はこれまでの二年間神奈川県の助成制度による開発支援を実施した成果を発表した。開発の目的は、リハによる下肢運動機能回復度の数量化を可能とする下肢運動機能回復度測定ステーションの開発と、収集したデータの解析とデータベース化によるリハによる下肢運動機能の回復度の定量的な把握の可能性を実現するものである。
 下肢運動機能回復度測定ステーション開発は1)車椅子リフター2)下肢往復運動測定器「コロマウス」3)足関節柔軟度測定器により実現された。 往復運動測定器「コロマウス」は下肢機能運動訓練具「コロコロ」を模した下肢往復運動測定器であり、「コロマウス」により往復運動測定が可能となった。 測定は前後方向の動きを指標とし、膝関節および足関節の柔軟さ運動の滑らかさ・ぎこちなさ、下肢の可動範囲そして左右方向の動きの検知から、左右の脚の前進・後退バランスが測定できる。その結果、速度・加速度・エネルギー消費量を定量化でき、患者の訓練中の負荷の程度を測定可能にした。足関節の柔軟度測定器は足関節の柔軟度測定の自動化を助けるものである。
 今後、下肢運動機能回復度の解析・数量化、生体反応データ収集機器の追加、患者データベースの構築、インターネットによるデータの共有化等を進めると報告した。

歩行補助具による屋内移動能力の改善
 長澤弘(北里大学医療衛生学部)は、日本と欧米の大腿骨頸部骨折年齢階級別発生率比較から骨折発生に骨密度以外の因子の存在を示唆し、環境要因または外的要因(つまずいた、滑った)と内的要因(ふらついた)に区分した上で、 転倒者の9.3%が骨折していることから、 屋内の移動能力に問題を有する者に対し、転倒を予防することと移動能力を改善する目的としたソリ付歩行器導入について報告した。

 東京大学医学部付属病院が主管する治験において、日常生活の移動能力が要介助あるいは監視レベルであるものを中心として、大腿骨頸部骨折術後4名、変形性股関節症術後2名、脳梗塞片麻痺2名、パーキンソン病1名、脊髄小脳変性症1名、腰椎圧迫骨折1名、髄膜炎後四肢不全麻痺1名を対象とし、ソリ付歩行器を導入した結果、FIMの結果では、総合計点と移動の項目で歩行器導入時と1ヵ月後との間に有意な改善を認めた (p<0.05)。運動機能の変化が、維持レベルであった症例でも、移動能力の改善が可能であった。また、3ヵ月後では1ヵ月後と差はなかった。

 結果から、移動機能に障害を有する患者の身体状況であっても、適切な移動補助具の導入により、身体機能レベルが改善し、日常生活活動を拡大・維持出来るといえた。さらに、介護者の介護負担を一部軽減でき、屋内での転倒による外傷・骨折を減少させ、寝たきりを防ぐ役割が果たせると考えられる。 歩行器の安全をこの治験で確認したが、利用者の日常生活自立の視点で、現在新たな実証研究を、テクノエイド協会の助成により実施中であると述べた。
(FIM : 機能的自立度評価法Functional Independence Measure)

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